書簡集

 数年前、好きな書簡を並べようとして念頭にあったのは『麒麟騎手』『ネルヴァル全集〈3〉』『シュルレアリスムの射程―言語・無意識・複数性』などでした。だから、これはそのときの補遺のようなものです。


 不思議への畏れから手を繋ぐことを遠ざけて、以後、手紙の風やメールの拍手がどれほど交わされただろう。紙と液晶できらめく畑を何年も歩みながら、ゆっかとさーちゃんの手と手が今、駆け足を始めている。「してきたことの総和がおそいかかるとき」、あたしとわたし、ついに「達」という帽子を舞い上がらせる言葉を口にしているようでした。


大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)

大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)

 「それは、なにかに、あるいは誰かひとりの人に、自分の信頼をそっくりまるごとあずけてしまいたいという欲求もしくは欲望です。ぼくには、たしかにそのような欲求があります」(訳者解説、ジャン・ポーランへのルネ・ドーマルの書簡より)。


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 『短歌研究』1989年11月号、特集「“歌人”からの手紙」。――そこにはドイツ語を解する西行が!


暗闇にヤギを探して (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して (MF文庫J)

 そう言えば手紙に始まり手紙に終わる物語でもあったのねえ、なんて。誰に出すつもりじゃなかった「書きつけ」が手紙となって返ってくるかと思えば、出したつもりの手紙が見せたい相手には読まれず空前のキックに変換されたりして、それで風もヤギも星も猫もなにもかも巻き上がっていく速度の、ただなかの、言葉の色の、おぼえがき(続く)。


岩成達也詩集 (1974年) (現代詩文庫〈58〉)

岩成達也詩集 (1974年) (現代詩文庫〈58〉)

 Kが誰かも、どこから来た話なのかも、説明されていることの仔細も、そもそもこれが実際に郵便されたものであるのかも、なにも明らかでなさに苦しむ、それでもきっと清明に手紙。ここには鳥もいます。「まず、あの話なのだが、あれは壁に激突して潰れた鳥が、その場所にひと握りの破片となってへばりつきながらも、なお、鳥であり続けるのは何故か、という小話からはじまったと思う」(「Kへの手紙」)。


 ラートラウフとアメライア姫が交わしたあれは手紙と言えるのか? 言える、という頼りなくも楽しい気分のまま、これを書いている。台所の扉に食べたいメニューをお互いにチョークで書き、読み上げ、一致したものだけを実際に料理する。書いたその場で交換される光のくじのような手紙、そして鳥も鼠も川もしゃべることをやめない。


松平修文歌集 (現代短歌文庫)

松平修文歌集 (現代短歌文庫)

 あなたからきたるはがきのかきだしの「雨ですね」さう、けふもさみだれ(『水村』)

 weather news, weakness news.

 「血の池のほとりで待つ」といふ手紙 今年も届き夏が来てゐる(『蓬』)

 walker news, water news.


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 〈遊ぶ〉シュルレアリスム展。観に行った日のメモから:「巖谷夫妻に瀧口修造が贈ったリバティパスポートよかった……。クエスチョンのあとにエクスクラメーションがあって、なにか勇気づけることが書いてあるんだな、って仏語が読めなくても伝わる……」、以上、予断にもとづいた妄想ですが。が、かすかに揺れる文字の配置や小さな紙の開き方のかわいさがそれを後押しするような、そんな感じはあった。展示は会場出口近くだった筈。


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 あきひこさんとすずこさんによるお手紙のおはなし。売る側が嘘つきグロスを塗ってていけない理由はどこにもないと思う。塗ったまま手紙を書いてはいけないという理由も(唇に塗ったものが書く手にも作用するとして……)。この往復書簡は現在進行形でもあるのでした、時と場所は金魚ファーによる( https://twitter.com/kingyofur )。

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