読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

 ちっちゃい子が出てくるともっとちっちゃい子が出てくる!!というよろこびは『セントールの悩み』だったけどアニメ艦これもそうでしょう。


 というところで長くその余韻を味わっていたところなんだか思い出すものが頭のすみからつついてくる。小学生の女の子の家に、もっとちっちゃいココア色の髪の男の子、そのじつ龍の子が転がり込んでくるというおはなしを学校に通っていたころ書いてて、まあ毎度お粗末なことに続かなくてほうっておいたんだけど、その子たちがつついていたんだった。ほうっておいたものがまたいいものとして立ち上がってくると、「時間が味方してくれる」ことを思ったりする。書かなかった自分の無精についてはもちろん措いてる。そんで、あっちも気にしてない。

 泣きじゃくるカバジートを呆れて見ているうちに、ふと気付いた。
 ――あ。龍って涙をふく必要がないんだ。
 ぽろぽろ、ぽろぽろ。
 まんまる目から、もっとまんまるな、まんまる涙。
 とめどなくこぼれるその水滴はしかし、カバジートの頬を伝って、小さな顎に流れつくあたりにはもうあらかた消え去ってしまう。
 あとから、あとから。
 ダムが決壊したみたいに涙は流れ落ちてゆくけれど、不思議なことに、すぐさまそれは蒸発したか吸い込まれたかでもしたかのようになくなってしまうのだった。
 よく童話では人魚の涙(アクアマリン)がとんでもない宝石みたいに扱われるけれど――それなら龍の涙ってもっととんでもないんじゃないだろうか。
 だって龍の涙はだれにも触れられないのかもしれないんだから。
 流れたとたんに、消えてゆくというのなら。
 ぽろぽろ、ぽろぽろ。
 龍の涙はどこに消えていくのだろう?
 しちりは息をひそめて見つめていることしかできない。
 (「イーホ・カバジート・デ・マールと七目しちり、その他の者たちに関するお話」)

 この話にはおまけがあって。
 なんとこの後、カバジートは熱を出して三日三晩寝込んでしまったのである。
 原因『はしゃぎすぎ』。
 知恵熱ならぬ騒ぎ熱?
 そんなアホなことで熱を出せるなんてアンタすごいわ~、とひどいことを言うと、ええおそらくどらごん族の長き歴史においてもワタクシめが初でしょう嬉しすぎて熱をだすなどという偉業を達成した者は、とトンチンカンな答えを返すのだった。
 なんでそんなに自慢げ?
 ともあれ病人であるには違いないので、床に布団をしいて寝かせてやったのだが、それがまた大変だった。
 熱を出すといっても、龍の場合はただ体温が上がるだけではないのだった。
 口から火を吐くのである。
 その理由については、体内で蓄積された熱を効率よくスムーズに排出するために龍の身体が進化した結果なのです! などともっともらしいことを語られたのだが、そういう説明を聞かされても驚かざるをえない。
 ふぅふぅと火を吹くカバジートを見て、しちりは目を白黒。
 ――うわあ。ほんとに火、吹いてるよ……。
 呼吸するたびにカバジートの口の先で小さな火が揺れる。
 と、そこでふと気付いて「ねえ、変な話だけど、その火って普通に火なんだよね……?」「ええ 正真正銘に火ですけれど? ですからいまのワタクシめにはあまり近付かないほうがよろしいかと ふぅ……ふぅ……」「うわわわ」。あわててカバジートの上に被せてあった布団の位置をずらした。万一、引火なんかしたりしたらシャレにならない。ご神体が火事なんか起こしたりしたら目も当てられないのだ。
 そういうわけで寝込んだカバジートから距離をとったのだが、かといってこのまま放っておくこともできない。
 顔を赤くして苦しそうに火を吹き。
 額に浮かぶ汗の玉が現れてはすぐ消えてゆく。
 さっきまであんなにはしゃいでいたのに……違う、はしゃぎすぎたからこそ、なのだ。
 しちりはおもむろに立ち上がり、部屋を出た。
 しばらくの後。
 ドアを足で蹴飛ばしてしちりが部屋に戻ってきたのは、なんだかいろんなものを抱えていて両手が使えなかったからだ。
 うちわに氷枕、額に貼る熱下げ用のシート、それに缶詰の果物をヨーグルトに混ぜたもの。
 「龍がどうやって熱下げるのか知らないけど……」
 ぼんやりとした目でこちらを見つめるカバジートに近寄り、ペタリとその額にシートを貼ってやる。頭を少し起こして氷枕を差し込み、ヨーグルトをスプーンですくって、ほれ、食え、とうながす。スプーンなら少々火であぶられても構わないだろう。ついでに言えば、龍がヨーグルトなんて食べるのかどうか謎だったが、いま考えつく熱対策としてはこれが精一杯だった。
 ぷるぷる震えるヨーグルトをカバジートはぱくりと呑み込んだ。それだけで、しちりはなんだか安心した。
 ンナ~、と後ろからとぼけた声。
 わずかに開いたドアの隙間からナーちゃんが入ってきたらしい。ちゃちゃちゃ、と、しちりの側にやってきて座り込む。そしてうさんくさいものでも見るようにカバジートを観察するのだった。そういえばコイツのことを発見したのはナーちゃんだっけ。しきりにうなってたところを見ると、どうも良い印象は持ってないみたい。カバジートもナーちゃんは苦手なのかな? 一度ちゃんと挨拶させてやった方がいいのかな。
 猫にいびられる龍の図を想像して、ひとりで吹き出しそうになった。
 カバジートにヨーグルトをあらかた食べさせた後は、うちわで扇いで少しでも熱が冷えるようにした。六月も下旬ということもあり、夜といえどもなかなかに蒸し暑い。しちりは部屋の隅にある扇風機をつけて、自分でも涼みつつ、うちわをパタパタと動かす。
 空いてる手でナーちゃんを撫でてやると、ほどなく目を閉じて眠ってしまった。
 こちらはと見ると、カバジートもいつの間にか寝入ってしまっていたらしい。相変わらず小さな火を吐いて、でも先ほどよりはずいぶん安らかな顔つきになっている、ような気がする。
 このままにしていれば大丈夫。なんの根拠もないがそう思った。
 ――ふわあ……ぁ。
 部屋の中で自分だけが起きているということに気付くと、急に眠気がやってきた。
 やっぱりそうなんだ。みんな寝てると自分も眠くなるんだ。
 (同上)

広告を非表示にする