読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

コモンと言葉――操作たちがあまりに寂しがると

ピトレアリスム ビデオゲーム

 ゲームをプレイしながらそこで出会う設計のゆくえを、ひとつひとつたしかめるように進んできたと思う。とりわけ、恐る恐る進んでこようとした(進んで、これただろうか)。セーブポイント。ステータス。顔グラフィックとキャラチップ。BGMやSE。!や?をキャラクターの上にふきだしのように表示させるポップアップ。それから、それから……それらゲームの言葉、ゲームという言葉、ゲームの中に書き込まれた言葉を読ませるための言葉、をプレイヤーは声に出すことなく発音するのだと思う、矢印キーを押したり決定キーを押したりすることによって。
 「カードの等級上の配列しか知らないならば、いまだゲームのやり方については何も知らないのである」(ダメット)*1。だけれども、配列はすでに語り始めていると思えるときが、ないだろうか。配列はすでに前提以上の言葉を口ずさんでいると……ただしこの言葉は必ずそのあと裏切られる運命を運命に。とはいえ、きっとどこか星では「アイテム論」のようなものも準備されてあるだろう、ゲームひとつひとつがすでにつねに見えないアイテム論の深さを測量し続けてあるのはもちろんのこととしても。


 この文を書き出している書き手はいつか、アニメ艦これにあって第六駆逐隊のあの四人は眠ることのうちで会話を行い始めていたのだ、と信じることにした。眠りの淵でゆるされるこのような語りを思うとき、「ざくざくアクターズ」*2ローズマリーが正しく教えてくれるように、眠ることは「出来事」に対していつでも疎外的である訳ではないのだと胸に晴れるものを持つことができる。

f:id:charonmile:20160128133358p:plain:w500

 ここで眠るということはイベント起動チップに向かい決定キーを押すことであったり、パーティー全員の体力が回復されるコモンであったり、画面暗転のエフェクトを呼び起こすことであったりする。そうであればゲームの中でひとくちに眠ると言っても、それ自体、設計上にしろ操作上にしろ多くのことが行われてある複数の動作の集合なのだと理解することもできる。寝ることでイベントが起こることをゲーム設計の側から見つめてみれば、「動作:休息」を起動する前に「もしイベントAを遂行済みであり、かつメンバーBをパーティーにくわえており、……」など、条件法の列、連言や選言による振り分けによって変数が参照され、結果が分かれる一連のイベント起動判定の始まりということにもなるけれど、そのための条件を必ずしもすべてプレイヤーは把握できない。ただしイベントを起動するための条件法の列はあらかじめ設定されてあるのだから、素朴な意味で、出来事はここでは「神秘」ではない、そう言われるのかも知れない。
 プレイヤーの思いは、またべつの側へつらなっていくのをやめられない。たとえば、お手紙を出すこと。「路地裏喫茶店~Le Petit Nuit~」*3で主人公のペルチェットはアイテム屋で購入した手紙を使って、サヨやミルフィといった友達に郵便を出すことができる。一日一回だけ出せる手紙のうちで、同居人のサヨを手紙の宛先に選択する。するとそれは、結局ペルチェットがいま住んでいる筈の、自分の家に向かって手紙を出すことと同じになる(……)。ではサヨからの返信はどうだろう? サヨからペルチェットへの手紙、それもまたふたりが住んでいる喫茶店のポストから受け取ることができる訳だった。今はもう神話のような位置を獲得してしまったかに見える歴史上のエピソード、デスノスがブルトン宛てに手紙を出そうとする、しかも住所はデスノス本人のものとして(……)、つまりそこにいる筈のないひとへ向けて手紙を出すという胸が詰まるようなおこないを願ったひとがいるということを、たしかに軽率にも思い起こしながら、さらにそしてペルチェットの公式キャラクターソングの題名「私の生きた街」という響きをもこぼしながら、自分の家へ手紙を出すという行動に一日一回限定のふしぎが連れ出されてゆくようだ。


 なんて長い一日だったんだろう!という感想をときおり、ゲームの子供たちがもらすことがある。たしかにそう、ゲームの中の一日、それは「見かけの一日」とも言えるし(入沢康夫がその詩論の中で差し出した「偽の時間」という言葉が今でも参照できるだろう)、動作主としてのキャラクターとプレイヤーとの間でともに考えながら描くほかない「真実一日」なのだとも言える。
 「路地裏喫茶店」と同じ制作者、月の側面のフリーゲーム「雨宿バス停留所*4があり、そのノベライズ作品が城崎火也によってKCG文庫から出版されている。校内の張り紙や古い新聞記事のレイアウトを模した虚構の引用、血にまみれた手形の印刷が挿絵とともに小説のページをいろどっていることもあってか、思いがけず角川つばさ文庫に紛れ込んでいそうな感触すらあり、興味深かった。それはゲーム画面から離れて、千歳が過ごした筈の「なんて長い一日」を追っていくことのなりゆきでもある。

 今夜の学校は猫だけではなく、肖像画もキャンバスもしゃべるらしい。生霊や不気味なものも徘徊している。
 (城崎火也『雨宿バス停留所*5

 肖像画もキャンバスもしゃべる、夜の学校、これはなんて長い一日……数えきれないほどの作品によって「夜の校内」という場所にこれまで上書きされてきた通時的な記憶そのものが、ここではしゃべってもいるのだと思ってみよう。なにかいる校内。なにか出る校内、とか。怪談のクリシェに位置を持つ夜の学校という場所それ自体は定型であるけれど、千歳が「カケラ」を拾い集めていくジグザグの動きは、いつか校内から空へと身を乗り出した道行きにかたむいていく。
 いや、ためいきが宿るのは一日という単位だけでない。マップタイルなどによって設計されるゲームの中の場所もまた、同じような思いのもとにある。とくに移動できるマップがひとつふたつしかないゲームでは、限定されたマップにイベントが上書きされていくことで、外観の変化なしに場所が意味によって変わっていくことの驚きをしばしば感じさせられる(だけれどもそれがすでに「外観が変わる」ことの定義なのかも知れない)。また、異世界からの、と言わず、謎解き要素を含んだ脱出ゲームというジャンル。ここで「脱出」の意義をどこまで狭く取るのか、明確な定義などない筈だけれど、マップというものを見直す契機がこんなところにも宿ってもいる。「広い家を探索する」のではなく、「探索するから家が広くなる」という感覚と言えばいいだろうか。
 この点でワンマップフェスへの参加作品、「境界線一歩手前」*6はやはり徹底的だ。自分がいま見ている部屋と、記憶にあった同じ部屋とをひとつのマップとして交代させ合うことで、プレイヤーにゆさぶりをかけようとする。脱出ゲームに話を戻すと「幻想乙女のおかしな隠れ家」*7はジャンルとしてはそう呼ばれないかも知れないにせよ、「探索するから家が広くなる」という、多く脱出ゲーム的な感覚と無縁ではないように思われた。家は部屋は思考している。


 こうして書き始めてみてもいったい自分にゲームのなにが明らかになった訳でもなかった(あえて言う必要が……?)。ただ、ときに、交わされる会話の意味内容以上のものを、マップデザインやゲームシステムへのほんのひと触れから受け取ってしまえる。ゲームの言葉、ゲームという言葉に向かってそんな気持ちがこぼれた瞬間を思い出してみたい。
 たとえば「UTOPIA」*8。シャコの出現をこわがるゆいをあかねが抱っこしながら通路を進むとき、歩行スピードが事実半減することの意味について、プレイヤーの手はなにごとかを言う権利があるだろう。矢印キーに寄り添ってきた手にこそ、物を言う権利は開かれていると思える。「感染性ナイトメア」*9をプレイしながら、最初から最後まで使われることがないステータス画面が姉妹に設定されてあることに気づいたときの、明るいやり場のなさ。選択肢つきの読みものを進めていた筈なのに、いつしかシューティングゲームに挑戦することになるゲームは「好きっていってっ!」*10だけれど、この唐突さを怪しむ必要はないだろう。ADVという自らに割り振られたジャンルを超えて、好きだと言わせたい気持ちはドット絵にまで飛び込んでいく。その果敢さ。ゲームクリア後に特典としておまけ部屋が開放される作品として「女子高生と時々幽霊ちゃん」*11を思い返すとき、そこでは登場人物のひとりについて、本編では実装されなかった「驚き顔」の顔グラフィックが紹介される。なぜ実装されなかったのだろうか? じつはそれは、その子がどうしても物語の中で驚いてくれなかったから、だという。実も蓋もないこの打ち明け話からは、ゲームにおいてもやはり書き手の思いを裏切って飛び出していく影、事前の物語をふいのものとするキャラクター:動作主たちが期待されてあることも、たしかめられてはいなかっただろうか。
 電気のX軸と電気のY軸が十字に擦るマッチの火の「ぼおぼお」となって、マップを移動する。違う、いつかマップが移動してくる。それはいつ? ……正確に答えられる日が来るとも思えないけれど、「えんどうさん」*12をプレイすることで、たとえばそこではもうイベントは起こらないのだと知りつつ、歩道橋を通るたび、遠く光る星のグラフィックを調べる気にさせられたりはするだろう。遠くの星に向かい、まるでその星がすぐ手前にあると当て込むようにして決定キーを押すとき、スピノザが教えてくれた太陽へのいわば「億の誤差」がくすっと笑ってくれる。そしてたしかに、遠く望んでいた場所がいつの間にか足元に滑り込んでしまうマップの文法の奥で、ブラックオリーブさんもやがて語り出すだろう。

f:id:charonmile:20160128155713p:plain:w500


 広くジャンル内のゲームでコモンとなっている操作について、もう少し思いを乗せてみたい。決定キーを押せば「話しかける」に、日記を書くは「セーブ」になる、とか。そういったゲームの慣習的表現の、これは操作というより設定上のコモンのようなものだろうか、RPGでは「初期装備」がある。キャラクターが最初から身に着けている装備という訳だけど、この初期装備を外すことにためらいをおぼえる。いや、ためらいをおぼえつつ、平気で実行する。実際、おそろしいことに、ひとは、私は、デーリッチ専用の頭装備である「おもちゃの王冠」を「詩人の帽子」に無邪気に装備しかえたりする。
 それにしても装備というのはふしぎな思いを誘うものがあって、たとえば「クジラアイランド」という装飾品扱いの装備があるけれど(「ざくざくアクターズ」)、これには「大きすぎて遂に人が住みだした鯨」とコメントがある。そんな居住区のような鯨を装備するってどういう?と訊かれても正確な説明は誰にもできないだろう。「それはまあ、そういうものだから」で納得して楽しく終わる話ではあるし、もちろんプレイヤーがそれぞれ想像してみることもできる。ただ、装飾品扱いであって武器でもなく頭や身体への装備でもない、という限定から想像の方向はしぼられたりはするだろうと思う。
 その意味でRPGの装備というのは少し、直喩を思わせるものがある。「AのようなB」というとき、AとBとの類似点が先に確保され、そのあとで二項を類似関係にあると言葉の上で明らかにするために「ような」が付け足される……というしかたに直喩は尽きるものではない。むしろ「ような」がまず言葉の上で二項を繋げるから、AとBとの必ずしも明らかでない類似点をときに無理強いに見つけ出すことも読み手は迫られる。AとBとの関係性自体を、つまり類似という出来事そのものをその場で立ち上げるのが「AのようなB」というときの直喩なのだ……というのが直喩についての今はもう古典的にもなった理解のしかたかと思う。
 ……ここで装備の話に繋げるのはいかにも粗雑だろうけれど、私にはそんな風にしてRPGの装備も受け取られるものだった。装備品が頭カテゴリーや装飾品カテゴリーとしてまずプレイヤーに渡されるから、アイテム自体は必ずしもそう一般的に見られる訳でないものをも、武器「として」、防具「として」見る楽しさが生まれてくるようだ。装飾品扱いの「王国旅行鞄」は武器にもなりえただろう。想像はそんな風に言う。「アルケミスト大全集」のような本が武器になるんだから鞄だって……という訳だ。「ビーム羽扇」は武器だけど装飾品のようにも聞こえる。武器や防具もカテゴリーの海を、主観性と客観性の海を今も旅している。
 デーリッチ。あの「おもちゃの王冠」は冒険者とともにカテゴリーの座をめぐって旅するアイテムたちへ、少しだけ遠いところから(「高いところ」からではなく)、いつでも頷いてみせようとしているようだ。「おもちゃの王冠」は最初に受け取ったものだ。デーリッチに流れ着いた最初のものがそれだった、ということだ。受け取ることを拒めない初期装備は、たとえば鳥が見知らぬ大地からくわえてくる草のひときれであって、海の上の船員にこれからたくさんのものが流れ着くことを示す指標にもなるのだと思う。
 「手はいのる 意味よりもくらく」(藤井貞和「哀傷」*13)。冷えた石のようなキーボードに手を乗せることが求められるフリーゲームにあって、自動戦闘というイベントが、三値論理の最終項のような顔グラフィック(敵か、味方か? いや、それは……)を迎えて始まる。そのとき手は石の上で少しはあたためられるものだか、知らない。「ざくざくアクターズ」でのラストバトルは、どうだったろうか。それでもゲームのパラメーターといったものをこれから思う際、そこで示されたHPという制度への明るい異議申し立てはプレイヤーの隣によみがえってくるのをやめないに違いない。「このHPは私のものではない」、ほとんど訴えのようなものとしてあるその気づきは、RPGのパラメーターという制度に寄り添って考えることをやめなかった者だけが書きつけることができる。そう信じていられる。


 曖昧な述語に頼りすぎてきたものだと思う。ゲームの言葉、ゲームという言葉……という言葉。といって、曖昧なままにその言葉に触れ直していく。操作すること、操作させるもの。キャラクターとマップ。グラフィックと台詞と。なんて長い一日と広くなる家と……。こうしてゲームの言葉を指折り数えていると、先に少し触れてもおいた「境界線一歩手前」の制作者である、ねこまりえるの提示してきたゲームの数々を無視することはやはり、できそうにない。この書き手がいま決定的だと思えるのは、動作主としてプレイヤーの操作を受けつけるキャラクターたちの情動が、台詞や独白といったテキストの意味内容を超えて、ほとんどゲームシステムの水準で受肉しているところにある。いつでも、胸を強くつかれるものがそこにある。
 ほかの場所ですでに少なくない感想を書いたこともあり、ひとつひとつ取り上げ直すこともここではできないけれど、まだ少しは書き留めておけるだろうか。言い方をかえて先述したことを繰り返せば、それ自体としては多く前例を持つゲームシステム(操作キャラクター交代制、マップ間でのアイテム持ち込み制、など)が、ねこまりえるによって取り上げ直されると固有の痛切な思いを宿して新しい設計の意味がゲームに与えられ始めるようだ。フィールドマップが大きく分けて「自宅か、夜の神社か」しかない「少女繭中」*14では、掠と梢という姉妹をかわるがわる操作することになる。だけれども、いったん交代制を始めたなら、姉妹は同じマップの一地点で画面を共有することはできない。ここから、「姉妹の究極すれ違い通信」とも言える、ひりつくような操作へのステップがおりてくる。操作キャラクター交代制というコモンはここで、同じひとつの家を歩いていながらどこまでも遠い姉妹の歩き方を教えてくれる。
 埋葬性と狂騒性。その意味では、死んでいった子供たちの夢をめぐる「黒塗童話」*15も忘れられない質感に貫かれてある。各ステージはそれぞれ特定の死んだ子供の夢として書き出される。その夢=マップにあらわれるさまざまな物を夢の外に回収してくるゲームという訳だけれど、夢の中で物を選択すると「こころにとめたもの」という欄にそれが表示される。このテキストのすばらしさ。夢の中でこころにとめられるものはひとつだけだ、という(……)。夢の外に回収されたアイテムには「痛み」や「死んでいったひとの見た景色」もある。つまり気持ちや記憶をアイテムとして手に入れたということだろうか。でも、それはどういうことだろう。これも、ねこまりえるゲームの、独自ではないけれど、ほかのゲームをプレイしたあとではやはり際立って立ち上がってくる質感のように思う。「黒塗童話」なら「アーカイブ」、「LordreDesFilles」*16なら「もちもの」と名づけられてあるメニューの欄を「アイテム欄」と言い直してしまうと、なにか大事な機微を取り逃がしてしまいそうで、それでも一番近い名はたぶんアイテム欄なのだろう。痛みや記憶、傘や写真が同じアイテム欄にある。
 この、言ってみれば場所を持たないアイテム欄については、これから少しづつ考え出していくことになるだろう。そこに取り集められた「詠ちゃんが最後に眺めたもの。」や「供養に向いているとは思えない花。」は、S評価クリアでも終われない夢の扉を叩いている。

*1:マイケル・ダメット、金子洋之訳『思想と実在』、春秋社、2010年、p.86

*2:はむすた「ざくざくアクターズ」(http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se508809.html

*3:月の側面「路地裏喫茶店~Le Petit Nuit~」(http://www.freem.ne.jp/win/game/4552

*4:月の側面「雨宿バス停留所」(http://www.freem.ne.jp/win/game/7872

*5:原作・月の側面、イラスト・時々、著・城崎火也『雨宿バス停留所』、KADOKAWA、2016年、p.153

*6:ねこまりえる「境界線一歩手前」(http://www.freem.ne.jp/win/game/10154

*7:ブリキの時計「幻想乙女のおかしな隠れ家」(http://www.freem.ne.jp/win/game/7275

*8:晋太郎「UTOPIA」(http://createlab.web.fc2.com/utopia/top.html

*9:yotabana「感染性ナイトメア」(http://www.freem.ne.jp/win/game/4798

*10:ここどこ「好きっていってっ!」(http://cocodoco.chu.jp/game/sukitteitte/

*11:春紫「女子高生と時々幽霊ちゃん」(http://www.freem.ne.jp/win/game/6383

*12:山根コヲ「えんどうさん」(http://www.freem.ne.jp/win/game/5589

*13:藤井貞和『現代詩文庫80 藤井貞和詩集』、思潮社、1984年、p.16

*14:ねこまりえる「少女繭中」http://www.freem.ne.jp/win/game/8359

*15:ねこまりえる「黒塗童話」http://www.freem.ne.jp/win/game/7128

*16:ねこまりえる「LordreDesFilles」http://www.freem.ne.jp/win/game/9552

広告を非表示にする