「百度目の四月」を迎えるのはどの月?

 私の確認できたかぎり、にじさんじ公式バーチャルライバー第一期組のひとり、鈴谷アキが動画上でウィンクできた最初の日は3月の3日。「【LIVE】Poly Bridgeしながら雑談【鈴谷アキ】」(https://www.youtube.com/watch?v=cyRSERsLhkE)、再生時間32分40秒からのやりとりのなかにおいてのことだ。


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 用語の問題というのがある。当初「バーチャルYouTuber」と名指されてあったものはいつしか、「バーチューバー」「VTuber」といった用語を生み出してもいった。さらに冒頭でかいておいた通り、にじさんじでは「バーチャルライバー」という用語も提案されてある(生放送を主体としたいニュアンスも含んでのことなのかどうか、私はくわしく知らない)。通時的な闘争の記憶を煙らせる点で、今すでに鈍重な響きすら帯び始めている「バーチャル」という語を捨てがたい気持ちもありつつ、口当たりのよさではvtuberを日々の上では使いがちで、こういった悩ましさはこれからもつきまとうのかも知れない。
 こうしてかき出してみたうちにだけれども、vtuberたちの声や字幕の問題、キズナアイからかたちづくられてきた放送上のスタイルについて、挨拶の問題(そして挨拶はそのままvtuber物真似で真っ先に参照されていくだろう)、新人vtuberの登竜門と言われるまでになった「壺ゲー」や「PUBG」の位置、またモデリングとキャラクターといった多くのことについて差し迫った考えを挟もうとはいま思っていない。ほかのvtuberとのキャラ被りへの忌避が引き起こしているかに見える問題についてもここではかけないままだろう。ただ、そういった話題に対して統一的な見解を編み上げるよりもまず、私にとって忘れがたいシーンを指折って数え上げられないものだろうか……。力ある語り手の多くをここで挙げそびれることにはなってしまうだろうにせよ。とはいえvtuberたちが演技的でもあるみずからの言葉にあらためて自愛を感じたり、また言葉を騒々しく組織しなおしていくありかたさえも、そうした些細なところを経なくては漠然としたものにとどまるに違いない。
 実際、静凛が「あ、ソーレ!」と唐突な掛け声でひとびとを驚かせたことは記憶に新しい*2。にじさんじ公式でデビューした同期のライバーたちを自由にカップリングさせ、愛しみ、視聴者に先んじて楽しんでしまうのは女神モイラだけれど、勇気ちひろの途上を思うなかで「女神はちひろちゃんをね、しあわせ以外の運命に……結びつけない」と小さく断言してみせてくれたことは、ゆるぎないものだ*3。しずりん、モイラ様、アキくんにかぎらない。にじさんじの公式キャラクター設定*4をなんとやすやすと、8人が裏切り、早くも飛び出していったものかあらためて思わずにいられない。
 また、魔法少女めあは「やあ、めあだ」とお馴染みのチューニングを魅力的に聞かせながら、合間合間の絶叫でパソコンの音量設定への注意を今更のようにもうながしてくれるだろう*5。あらぶった声を整えるために行う「やあ、めあだ」という自己紹介発声をチューニングと名づける彼女がすきだ。音声認識と字幕出力とのもどかしく繋ぎにくい声のありかたは、のらきゃっとによって「ご認識」を広めたようだけれど、そのもどかしさをくぐって「千葉県 民話を揃えろ」という鋭い言葉のマフィアが姿を見せるのはミアルの剣さばきのうちであった筈だ*6 。それにしてもお兄様をかなたに据え歩み続けるあの貴公子、届木ウカのSplatoon2実況*7に「この歌がちっちゃいから登って」(「この板が来てから登って」の誤認識)という字幕を見つけ出すとき、ここでは、どれほど大きな歌が予感されているのだろう、と誰もが溜め息をついたものだ。


 以上のようなにぎやかな声々の一方、「千年後の街に一人寂しく/乾杯の音はもう聞けない世界で」(霊電カスカ)*8という歌詞を残していったのもまた、vtuberではあった。ここではパーティーの音の欠如がそのまま未来の環境を定義してしまう。
 こうしたよどみのなか、カフェ野ゾンビ子動画を見てしまうこともできるのだろう。ゾンビ子はそのいわば歌ってみた動画「なんだか切なくなったった」*9において最後、彼女をおさめつづけてきたカメラに近寄り、みずからの手で床に倒してみせる(FPSものでゲームオーバーになったプレイヤーの姿を連想にいざなうように)。異世界で、奇妙に親しみをもって紹介されたゾンビの「たかし」とそのショッキングな顛末をおさめた動画(「友達を紹介します」と「大変なことが起きました」)が、たとえ「台本」を頑固に主張し続けようと、そこで聞かれるゾンビ子自身の戸惑いの声は視聴者のうちで最後まで整頓をつけないものでもある。
 もちろんばあちゃるはハイハイハイハイとくちずさみつつ今日も床にその下半身をうずめることだろう。今や、そんなことも「知らねえ奴はモグリ」なのでさえ、あるのだろう。それでも「シナリオか、即興か」「演技か、本音か」といった二分法を手放せないでvtuberを見に行くひとびとにはご苦労様、と言わねばならない。vtuberの突出したいくつかのシーンを見るうちに判ってきたのは、演技的に口にだされた言葉がみずからをしかし、演技ではなしにあたためる瞬間であったり(最果ての魔王ディープブリザード)、予定的なストーリーと偶発的な悲鳴との境界画定を誰にもあきらめさせるほかない瞬間(カフェ野ゾンビ子)だったと思う。
 ここである宿命性のもとに思い浮かべているのは、シロのアキネイター動画だ*10。すでに遺跡化しつつあったアキネイターが、vtuberに取り上げ直されてみると、そこではプレイヤーと答えの人物が一致すべきものとみなされる構えのうちに新しい誘惑が眠っていたことにも気づかされる。自身のプロフィールが厳密にかたまっていないことをむしろ無意識の賭け金のようにもして、そこでは言葉と設定は可塑性への通路を見つけていく。アキネイターから提示される馬鹿げていたり間の抜けていたりする質問を、シロもまた、「そうなりたい」という将来的な希望の側へ抱き寄せるように答えてみせるだろう。「アモーレに関係していますか?」というまったく難解な問いに対して、「アモーレに関係したいです!」と言いながら「たぶんそう部分的にそう」を越えて「はい」という返答へマウスカーソルを向かわせるシロの指は一挙的なものだ。
 このようにして「いつもランダムに回答する賢い人」という診断結果が、アキネイターからシロへ渡された訳だけれど、美しい言葉ではないだろうか。


 振り返ってみるとvtuberたちの住み込み出してある空間では「思いのままにならない」ということが浮き彫りにもなっていた。そこでは、手が弾け飛んでしまうから拍手ひとつできないのだし(ニーツ/VT-212)、ウィンクしようとすれば両眼ごと閉じてしまうし(鈴谷アキ)、 すぐそばの鬼に節分の豆を当てるのにリテイクをどれほど重ねたことか(もちひよこ)。モデリングの問題、機材環境の問題……とそれぞれケースは異なるにしても。問題のある言い方をとればべつのからだにはべつの厄介さがつきまとう、という古くも色あせがたいおはなしだろうか。そういった厄介さごと大仰ではない笑いにかえてしまうところに魅力があることにも半ばうなづきつつ、アキくんが、なしえなかったウィンクをできているのを見た瞬間のうれしさに涙は、やはりなにかを言おうとしていたと思う。
 そう言えばシロがあるとき*11、アフレコという方法にたくして「雪山で遭難した時 氷が(=から)出る水蒸気がのろしのように見えたら それは救助隊へのひとつの合図になると思いませんか?」という一節を語り出したときはっとしたものだ。すべての見えにくい合図たちへのこれは、合図でもあるに違いない。シナリオと即興、演技と本音、収録と生放送、そして「そうしようと思っていたもの」と「いま急に浮かんだもの」とを溶解させるようにして立ち上った水蒸気にどんな「はいどーも!」が聴きとられるのかは、vtuberの問題ではないだろう。

*1:アキくんちゃんネル「【LIVE】Poly Bridgeしながら雑談【鈴谷アキ】」(https://www.youtube.com/watch?v=cyRSERsLhkE])内からの引用

*2:Shizuka Rin Official 「【LIVE015】【殺伐枠】 バーチャルライバー凛 #しずりん生放送」(https://www.youtube.com/watch?v=s6Fy-j9HvRo

*3:《にじさんじ公式》モイラ「《にじさんじ公式》ちょっとだけおしゃべりがしたい女神の唐突生配信」(https://youtu.be/gP1ly3hKMSM

*4:https://www.ichikara.co.jp/official

*5: 魔法少女ちあちあちゃんねる「【魔法少女めあ】闇堕ちと深夜の壺(その1)」(https://www.youtube.com/watch?v=NtF9UK576T4

*6:MIALチャンネル「ロボット系バーチャルYouTuberミアル、ジェダイの騎士になる」(https://www.youtube.com/watch?v=m2z_rxWtRLk

*7:Uka's room「【Uka010】誰がイカ様やねん!!【Splatoon2】」(https://youtu.be/mmMmxpUrxyw

*8:霊電カスカ「作詞作曲演奏ボーカルやってみました!【登録者様2000人突破記念】」(https://youtu.be/sG5-rz5cObU

*9:Zombi-Ko Channel「なんだか切なくなったった」(https://youtu.be/lV3W4N2ZiRo

*10:電脳少女YouTuber シロ Siro「【旅】シロ、自分さがしの旅に出る【041】」(https://youtu.be/1pOqBAyQcH0

*11:電脳少女YouTuber シロ Siro「【ミリしら】1ミリも知らないワイン試飲動画にアフレコしてみた」(https://youtu.be/UkvwejJf85M