「灰羽連盟」5話まで

 「私は自分に誓った沈黙の約束をいま果たす」、とルゴーネス短編集の序文にボルヘスが置いた言葉を引用してしまうほどだ。その程度には力んで私も観てしまうものでもあり、その程度には先延ばしし、手をつけてこなかった灰羽連盟


 思うに「羽」と言われるから、「翼」が見えなくなる。「灰」と作品外から先に言われると、画面の、ことさら灰色してる部分や、逆に灰色でない箇所を意味深く観るようつっつかれて、そもそも「灰色か、そうでないか」の二者択一的注視では見えない色味のありかを感じにくくさせられるように。羽/羽根という表記上・語義上の使い分けはともかくとして、ラッカの二対の「ハネ」からぱらぱらと小さな「ハネ」が抜け、舞い飛ぶシーンを見ると、そのバサバサの全体も部分もひとしく「ハネ」と呼んでしまう自分に不審をおぼえ、あのバサバサを言うべきなにかべつの言葉がなかっただろうか……いや。そこでようやく「翼」という言葉がそのときまで、見えなくさせられてあったのに気づいた。羽があるとき、翼は隠れてる。なんの寓意でもなく。


 こんなに自転車アニメだとは思わなくって。とにかく隙あらばふたり乗りで自転車こいでる。私のなかで相乗りアニメの名をほしいままにする。生まれたばかりのラッカはみんなの仕事を見るのが仕事、ということで、今日はカナ、明日はネムに、と誰かの仕事場に同行する。4話、自転車で駆け降りるとこの作画の短いながら、快速調の景色のなかでぱっと映るカナとラッカのやや遠目からの、素朴にかかれた顔の目鼻立ちの処理のしかたはすばらしい。


 なにを贈るかは恥ずかしいから内緒、という態度は真っ当なだけに、そのくせヒントは教えてしまうネムに親しみと愛をおぼえる。ラッカが、どれだけネムのあの眠らない一夜を励ましたか知れない。


 勝手な想像はやはり勝手以上のものではなくて、こうちゃんと観てしまうと、「天使のうつわ」より「ネフェシエル」に似ていました。似てあって欲しかったところが、というより否応なく、というところが。

ラッカ「なにをしてるの?」
レキ「アンタの羽を綺麗にしてる」
ラッカ「ずっと……してる……?」

 1話の会話から。レキの台詞が悪いっていうんじゃないけど、ラッカの「ずっと……してる……?」こそ、この瞬間のラッカにしか言いえない、類まれな返答だろう。この疑問符をつけるかどうか今もかなり迷ったけれど。生まれて張り裂け、眠り、帰ってきた子はこんな言い方を持っていて、ちっとも油断ならない。快癒へ向かうなか、「頭があっつい」、これは言ってることの深刻さと裏腹に声がすでにあかるんでいて(広橋涼!)。うつぶせの状態でベッドからレキを見返す汗だらけのラッカの表情は、ここでやっとひとつの「顔」を得たようで。翌朝は静電気でご立腹のラッカであり、「おや、笑ったね」という訳で。


 「宇宙よりも遠い場所」を最終話まで観て、ひとつはっきりしているのは「灰羽連盟」を今日観れるような気持ちになったのはそのおかげだということ。