「灰羽連盟」6話~13話まで

 クウみたいなひとが先輩でよかった、とかラッカが言う。はにかむというでもなく、クウのなかにその言葉が染み込んでいく(見える)。あるいはどこかの部屋のなかで。ふたりでなにか談笑し、くすっと笑い合うと、誰に隠れている訳でないのにほかの灰羽たちには内緒話らしく聞こえてくる。こうした語らいの場面には、特定のなになにからではない、歴史の長い引用が宿ってるように思う、それは作品に対して傷ではないだろう(「洋画」という錆びた単語、しかし「洋画で見た気がするやりとり」というこれだけは錆びない文、それへの……)。


 ごぉん──ごぉん──という時計台の鐘の音が役立つ、いや、役立たせる6話。これは実行的かつ実効的な知恵というべきで、このアニメの発想の良質を目立たせるものではあるのだろう。シャミッソー、アイヒェンドルフ、ブレンターノなんかのメルヒェンのような機知を思う。ネムの本へのラッカの寄与もそうだろう。他方で、より作品世界内で息の長い知恵には羽ぶくろというのもあって。冬がくる前の準備だ、というけれど……私の側で思い出せるのは、裏庭の樹々の幹に、荒い筵のようなのを巻いて縄で締めていたひとの記憶だ。大きな腹巻のようで、あれは雪から樹の肌を守るため、だったろうか。そのひとに訊いた気もするけれど思い出されない。そうそう、灰羽たちの光輪(どうしても輪っかと言いたくなるね)、あのつくりかたも知恵のひとつ。


 貨幣ではなく「手帳」で買い物をすること(手帳がでてきたとき、私は緊張した)。また、新品を求めることはゆるされず、「人間」の手垢のついたものをもらうこと。また、羽がまずもって身体的逸脱性を帯びてもしまうこと(灰羽用にあつらえたものではない上着でからだを覆えば、背中から生えた羽は大きな「瘤」としてのシルエットを寄せる)。人間のひとびとは灰羽に優しく、けれどその優しさが祝福概念に徹底的に裏打ちされているかも知れないこと。もっと言うと灰羽たちを最初から人扱いなどしていないから優しいだけなのかも知れないこと。等々の要件を洗いだすことで、灰羽たちをしぼることで満足できないひともいるかも知れない。アニメ以前の現実人間地球世界でも、灰羽たちのような身体的特徴をめぐるありかた、受け入れられ方を集団的に満たす「対応者」(デイヴィド・ルイス)を探そうとするひともいるかも知れない。そういう線を私はここでとらない。無駄だと言いたい訳でない。一方で、普遍性をいいことにすべてを片づけるべきでもないとは、思う。
 おそらく「灰羽たちをあなたたちはどう思いますか、どう見ていますか」と街のひとびとに大文字で質問してしまうと、相手も大文字の答えしか返せなくなってしまう(でも、人間同士でもそうでないって言えるかよ?)。作品内で明示的には、古着屋の主人がうっかりとだろう、縁起物、という表現をラッカに対して発してしまうシーンにそれは求められる。「gift」や「祝福」によるお決まりの疎外ではある……。そして、灰羽たちを心ならずも突き放す大文字の答えにはしかし与しない笑顔や、ささやき、じゃれ合い、気遣い……といった毎日の思いが確実に街の住人と灰羽たちとを取り結んでいることを見ないでは、それもフェアではないだろう。時計屋のおじさんとカナ、ヒカリとパン屋のひとたち、ネムと図書館の子供たちやスミカ、もちろん古着屋の主人も。そういったひとたちとの日々のつきあいでは、大文字の問いと答えには乗りえない心の底の声こそが、むしろ表にでて声や身振りで伝わっているのだと思いたい。


 たとえば原初的に失ったなにかがあって、それを取り返すために不可能な努力を続ける……という仕組みへの批判史と、構造的に今更取り戻せないなにかを追い求めてその傷つきかたの激しさにロマンや情動やドラマを託す作劇への批判史を、私もやはり教育されてきている。それは問いの立て方が間違っているのだから……という。私もその多くに同意する。その上で私が思うのは、扉の下でうずくまって、ベッドの上で膝を抱えて、汗にまみれているひとたちはそもそも自分のなりゆきを「問いを立てる」というような悠長さで考えてはいないだろうということだ。少なくともそんな言葉遣いはできないところでうずくまり、膝を抱えているだろうということだ。この言い方ではまったく十分ではない。言葉遣いが悪い、と言っておくか? 「他者」や「外部」も無用だ、そういう言葉遣いではだめだろう。今にも閉じそうなハサミは怖い? じゃあ重ねた手のうちで閉じきったハサミとどっちが怖い? カナのメジャーはすぐほどけてしまうね。そういえば、レキのスクーターはどこで仕入れたのかな。思ったより、飛ばしてるところを見れなかったな。ラッカ、井戸からあんな大きく声あげるなんて思わなかった。みんなの名前を板にした外出表が映るたび、怖かったよね。あのテイクアウトの豆のスープの入れ物、あのテイクアウトの……。