名に関するひとつの引用(ある本から、秘匿的に)

 宇治の入道藤原師実の館に「うれしさ」という名の端づかいの女がいた。身分の低い女であったろうが「うれしさ」とは奇妙な名である。用があって呼びつけるとき、師実あたりはどのようなおらび声で「うれしさ」と声をかけていたのであろう。よばれた方も、いそいそと罷り出るのがふさわしいとしても、時には機嫌のよくない折もあったりして、しぶしぶ手をついて「うれしさにございます」ではさぞかし気伏せなことであったろう。